70歳の編集者が人生を振り返り、伝えたい本をおすそわけしていくブログです。

部首ときあかし辞典

ステイホームが続いている。出口が見えてこない。何かやろうとする気力がわいてこなくて、テレビばかり見ている。オリンピック開催には賛否両論があったけど、スポーツ観戦はやはり楽しい。こんなに心躍るのはいつ以来だろう。少しだけだけど何となくやろうかな、と思えてきた――。ここ数年、毎日のように考えていたのが、漢字パズルの問題だった。本にするわけでもなく、どこかに発表するわけでもなく、おもしろいのかどうかもわからずに、ただただ問題を考えていた。新しいパズルが思いつくのは極めて稀で、あれこれと頭を使いながら、気がつくと時間があっという間に経っている。

金沢望郷歌

久しぶりに原稿を書いている。本を読んでいなかったわけではない。書きたいと思うような本がなかったわけでもない。ただただ、書く気が起こらなかっただけだ。2021年になって、いきなり2回目の緊急事態宣言――これに、まいってしまった。ともすると、先行きが見えない不安感に押しつぶされそうになってしまう。そんなとき、本棚の奥で懐かしい本を見つけた。それが、この「金沢望郷歌」だ。手元にあるのは文庫本で、奥付を見ると1992年4月10日とある。およそ30年前の本が突然、目の前に現れたのだ――。著者は「あとがき」にこう書いている。

食堂のおばちゃん

久しぶりに面白い本を読んだ。初めて読む作家。山口恵以子1958年生まれとあるから、歳だけでも何故か親しみを感じてしまう。暮れに本の整理をしていて見つけた本である。どうしてすぐに読まなかったのか。悔やむほどに面白かった。というより、こんな食堂で食べてみたい、と思った。未曽有の体験をしている今、外での食事をまったくしていないわけではないが、以前ほどはできていない。何をおいても、自粛である。

京都に女王と呼ばれた作家がいた

友人であり、同世代の近藤等則が10月17日に亡くなった、と知ったとき、この本を読んでいた。この本で取り上げている女流作家とミュージシャンの彼とは、何の関係もない。むりやり関係性をさぐるなら、作家は京都女子大、彼は京都大学、と同じ京都で学んだことくらいだ。それなのに、読了後、不思議な感覚を覚えた。それは作者の次の言葉に影響されたからだろう。彼女はこう書いている。

「総理の夫」と「スケープゴート」

ここで取り上げる2冊の本「総理の夫」と「スケープゴート」は、女性総理の物語であるが、内容は全く違う。前者は、妻が総理になったときからの夫の日記形式でつづられている。後者は、民間人の大臣となった妻が、経済学者から政治家となり最後には総理大臣となるまでの物語である。現実の世界では、安倍総理が辞任して、官房長官だった菅義偉が第99代内閣総理大臣に選ばれたばかりだ。派閥の論理で自民党総裁に選出されれば、そのまま総理の座が約束されている。だが、小説の世界では、世論が二人の女性総理を選んだといっていい。アメリカの大統領選挙と違い、日本では国民が直接、内閣総理大臣を選ぶことはできない。常に、派閥の論理で決まる。国民の声が届くことはまず、ない。そんな不満を解消させてくれる2冊の本だ。

疫病2020

この言葉は、本書の「はじめに」の冒頭に書かれている。33歳のときノーベル生理学・医学賞を受賞し、2008年に82歳で亡くなったアメリカのウィルス研究の第一人者、ジョシュア・レダーバーグが遺した言葉だ。まさしく、2020年はその通りの年になってしまっている。日本に限って言えば、その「はじめに」で著者はこう書く。〝日本では、コロナ対策を「官僚」に依存して乗り切ろうとした安倍晋三首相が信じがたいリーダーシップの欠如を露呈した。感染国からの入国禁止措置という最重要策を採らず、ウィルスが拡大した欧州からの入国禁止も決定的に遅れ、日本国内に無症状感染者が蔓延する事態を創り出してしまったのである。経済対策も財務省に丸乗りした首相に、コアな支持者からも失望の声が飛んだ。〟5月末に書かれたであろう「はじめに」である。

首都感染

この小説の再読をずっとひかえていた。いま読めば、安倍内閣の無策に腹が立つほど、チャイニーズウイルスの現状を予言しているからだ。この本の面白さをうまく伝える自信はないが、今回のチャイニーズウイルスと比べながら見ていくことにする。「首都感染」が刊行されたのは、2010年12月のこと。講談社100周年記念の書下ろし作品である。

任侠シネマ

今野敏の「任侠」シリーズ第5弾だ。ヤクザが主人公の小説だが、このシリーズは一風変わっている。これまで4冊のタイトルを見れば、普通ではないことがわかるだろう。任侠書房、任侠学園、任侠病院、任侠浴場。阿岐本組長と組員5人のちっぽけな阿岐本組(あきもとぐみ)は、今の世の中では珍しい「任侠道をわきまえた」ヤクザという設定。大組織に属さず、独立を維持している「一本独鈷(いっぽんどっこ)」の組である。この組長のもとに兄弟分の永神から経営再建の話が持ち込まれるところから、物語が始まっていく。出版社、私立高校、病院、風呂屋と舞台は変わるものの、ストーリー展開はエンタテインメントの王道である。テンポよく進むので、一気に読んでしまう。ストーリーテラー今野敏の面目躍如だ。

官邸コロナ敗戦

昨日、緊急事態が全国で解除された。安倍首相は「日本モデルの力を示した」と、いかにも対策がうまくいったと語ったが、とんでもないことなのは誰の目にも明らかだ。タイトルで衝動買いした「官邸コロナ敗戦」は5月2日の発売なので、肝心のことが抜けている。それは後述するが、安倍首相の「武漢コロナウイルス」対策は結果だけ見て「日本モデルの力」と判断してはいけない。

呵呵大将 わが友、三島由紀夫

著者の「竹邑類」と聞いて、すぐに思い当たる人は、かなりの演劇通に違いない。数々の名優主演の舞台を手掛けている、演出家であり、振付師であり、ダンサーでもある。まず、出版元の新潮社にある、本書の内容説明を掲載。〝1960年代初頭の夜の新宿で、後に舞台演出家となる少年は、好奇心肥大の流行作家と出会い、たちまち意気投合。冗談を飛ばし合い、愉快なイタズラを企んでは二人で大笑い。やがて作家は、少年をモデルに一篇の小説を構想する……。純粋で暖かくて権力大嫌いの大常識人、すこぶる人間的な「三島さん」の姿を初めて活写する。〟