60年代後半から70年代にかけて、五木寛之に傾倒していった。
それまでこのような小説は読んだことがなく、強烈なショックを受けたからだ。文章に引き込まれるように、ページをめくっていく自分に驚いた。
「さらばモスクワ愚連隊」と同じ年に発表された「GIブルース」、翌年の「海を見ていたジョニー」、どれも読んでいると、音楽が流れ出すように感じた。不思議な気分だった。
そして、翌年の3月から週刊『平凡パンチ』で連載が始まった「青年は荒野をめざす」――。
この『平凡パンチ』と対抗するかたちで、集英社の『週刊プレイボーイ』が創刊されたが、なんといっても『平凡パンチ』派だった。いまだにボタンダウンのシャツが好きなのも、このころの影響だろう。
「青年は荒野をめざす」は、ジャズ・ミュージシャンを目指す二十歳の青年が主人公の物語である。横浜港からバイタル号という船でソ連のナホトカへ向かい、モスクワ、ストックホルム、コペンハーゲン、パリ、マドリッド、リスボンと旅をしていく。自分の欲しいものがどこかにある、と信じて――。
何の疑問を抱くことなく、大学に進学すると思っていた受験生にとっては、とてもショッキングな物語だった。
60年代という時代の重さに耐えかねるように、音楽とセックスの日々。あくまでも幼いほど真剣に、不器用に生きる、若者たちが描かれていく。
いま思えば、そんなに驚くことではないのかもしれないが、それだけ未成熟だったということだ。
大学へ進まなくても学ぶことはたくさんある、と教えてくれた小説だった。
だが、いきなり社会へ飛び出すほどの勇気もなく、だからといって迷うこともなく、ただただ受験勉強を続けていた高校3年生だった。
翌年、ドラマ化でもないのに、ザ・フォーク・クルセダーズが同タイトルの曲を発売した。いま考えると、これは出版界初の、単行本の主題歌の誕生である。
この本をカナダのトロントで暮らしていた、高校2年生の息子に送ったことがある。人生は一期一会だ、と教えたかったからだ。
「一期一会」は「いちごいちえ」と読むが、初めての出会いはもちろんのこと、何度会っていても、そのときは毎回「一生に一度しかない機会」である。
この作家の本と出会っていなかったら、出版という道に進んでいただろうか、と自問自答している。
[BOOK DATA]
「青年は荒野をめざす」
作者:五木寛之
初出:週刊平凡パンチ(平凡出版1967年3月~10月連載)
単行本:文藝春秋(1967年)
文庫本:文芸春秋(1974年・2008年)
TV:「青年は荒野をめざす’99」(1999年、名古屋テレビ、東宝 1999年、監督:加藤義人、主演:安藤政信、葉月里緒菜)
楽曲:青年は荒野をめざす(作詞:五木寛之/作曲:加藤和彦/歌:ザ・フォーク・クルセダーズ、1968年)