チーム

俺たち全員の責任だ。
俺たちはチームだから

「チーム」は、箱根駅伝の小説である。

正月のテレビを見て、久しぶりに読み返した。

一気に読んだ。ストーリーがわかっているのに、改めてまた感動したから驚く。

ご存知だろうが、箱根駅伝に出場できる大学は、前回10位までと、予選会10位までの合計20校だけである。

そのほかに、出場を逃した大学のなかから、予選会で好タイムを出した選手が選ばれる「学連選抜」チームがある。

この物語は、その学連選抜チームの選手たちが主人公だ。

一度は敗れた選手たち。その寄せ集めメンバーが、一本の襷をつないでいく物語だ。

何のために、誰のために、一回こっきりの襷をつないでいくのか――。

予選会11位で学連選抜の監督に選ばれたのは、オリンピック選手を何人も育ててきた名伯楽。それなのに、箱根駅伝には一度も出られなかった。

それが皮肉なことに、引退する最後の年に、学連選抜の監督に選ばれたのだ。

学連選抜のキャプテンは、箱根経験者の選手、4年生の浦大地。昨年は10区を走り、大ブレーキとなって失速。母校はシード落ちとなってしまった。

学連選抜には、大学ナンバーワンのランナー、山城悟がいる。彼は自ら「駅伝は一人じゃ勝てない」ことを証明してしまった。

作者の堂場瞬一は警察小説の雄だが、スポーツ小説のほうがいい。そう思うのは私だけではないだろう。

今回の作品も、駅伝の面白さ、感動を十二分に伝えている。

かれがなぜ「学連選抜」の物語を紡いだのか。本文から引用しよう。

“チームは本選に出場できない。しかし自分は走る。これをチャンスと考えていいのか。仲間たちに対する背信行為と悔やめばいいのか。箱根駅伝は、ただ走ればいいという簡単なものではない。まったく、学連選抜なんていう制度、誰が考えたのか。チャンスの裏には戸惑いあり、だ。”

チームが集まった最初の日、作家は監督にこうも言わせている。要点だけを引用してみる。

「君たちが俺にチャンスをくれた。こんな素晴らしいチームで箱根に出られることを誇りに思う。ありがとう」

「最初にキャプテンだけ指名しておく。このチームは俺のチームじゃない。君たちのチームだ」

「基本的に往路でリードを作って、復路でそれを守りきるというレース展開でないと優勝は狙えない。そのためには、全員が平均して力を出すことが必要だ」

「君たちの一万メートルのベストの平均を取った。数字だけを見ると、何とベストスリーに次ぐものなんだよ。すごいことだぞ、これは」

往路でリードを作って、復路でそれを守りきる――これは、まるで今年の優勝校である青山学院そのものだ、と思った。

舞台設定の仕方がうまいから、読者は予定調和的な展開でも読まされてしまう。この小説は、その典型であろう。

文庫本の本文は429ページ。三分の一はイントロダクションだが、177ページからは、箱根駅伝のレースである。

テレビで箱根駅伝を見るように読んでいける。このあとの展開を書くのは野暮というものだろう。

この後編ともいうべき小説「ヒート」も読みごたえがある。架空の「東海道マラソン」で山城が走る物語。

さらに「チームⅡ」では「チーム」7年後の物語が描かれている。

2020年3月には「チームⅢ」の発売も決まった。出版社のリリースには「東京五輪マラソンで必ず金メダルを獲る――そのために、伝説のランナーが帰ってきた!」とある。楽しみだ。

箱根駅伝を題材にした小説では、三浦しおん「風が強く吹いている」、黒木亮「冬の喝采」がある。

どちらも面白い。読み直そうと本棚や段ボールの中を探したが、どうしても見当たらない。

特に「冬の喝采」の著者は、早稲田大学のメンバーとして実際に箱根駅伝を走っている。その練習日記を元にして書かれているので、登場人物は実名だ。2区の瀬古俊彦から襷を受け取り3区を走った著者が紡ぐ、ノンフィクションに近い読み物と言える。

ちなみに、黒木亮という作家は、2000年に国際経済小説「トップレフト」で作家デビュー。

何冊か読んだが、2016年に発売された「国家とハイエナ」が面白かった。機会があれば、いつか紹介したい。

それにしても、箱根駅伝はなぜ、これほどまでに盛り上がっているのか。

午前中の8時スタートにもかかわらず、1月2日の往路、3日の復路ともテレビの視聴率には驚いてしまう。

今年は往路が27.5、復路が28.6という平均世帯視聴率を記録している。昨年などは往路が30.7、復路が32.1だ。

日本テレビでのテレビ中継が開始された第63回(1987年)から、ずっと高視聴率を記録している。

私も、母校が出場しているわけでもないのに、2日と3日はずっとテレビを見続けている。酒を飲みすぎて、うたた寝していることも多いが……。

興味があったので、母校の記録を調べてみた。

出場30回。総合優勝が1回だけある。なんと第13回大会でのこと。おいおい、いったい何年前のことだ⁉

往路・復路とも2位だが、総合で優勝している。

競争部創部が1917(大正6)年と歴史はあるが、予選会10位で出場した第70回(1994年)を最後に四半世紀も出場できていない。

もし母校が箱根に出場できたら……と考えるのは、最近の予選会の成績を見るかぎり、夢物語であろう。

慶應にも山城悟が出てこい!

小学生のころ、親戚の家の前を走り去っていく、箱根駅伝の選手を毎年のように見ていた。

従姉と一緒に見ていたことを、いま、懐かしく思い出している。

[BOOK DATA]

「チーム」
堂場瞬一
単行本:実業之日本社2008年10月17日 初版第一刷発行
文庫:実業之日本社2010年12月15日 初版第一刷発行