大学時代はアルバイトの毎日だった。ストで学校が閉鎖されていたこともあるが、家庭教師を皮切りに、スナックで働いたこともあるし、東神奈川の駅前に立って日雇いの仕事をしたこともある。クレーン作業に必須の“玉掛け”の資格をとったのは、そのときだ。
このアルバイトが縁で、マルチ商法に誘われてしまう。金の誘惑に負けた結果、弟に買ってあげた車が一台残っただけで、友人たちには大きな借りを作ってしまった。
大学を卒業したものの就職はできず、以前アルバイトをしていた伊勢佐木町のタウン誌「ドロップイン伊勢佐木」で取材原稿を書いて、その日暮らしを続けていた。
そのとき出会った本の作者が、梶山季之である。「赤いダイヤ」、「黒の試走車」、「非常階段」、「女の警察」……と、野毛の古本屋で買っては、立て続けに読んでいった。
「赤いダイヤ」を調べてみると、1963年にTBS系列でオンエアされた連続ドラマの原作でもあった。中学生だったが、そのテレビドラマはおぼろげながら覚えている。
多額の借金をして自殺をはかる主人公が、希代の相場師に助けられるところから物語は始まる。赤いダイヤとも赤い魔物とも呼ばれる小豆(あずき)相場を舞台に、一獲千金を狙う人たちの悲喜交々の戦いが描かれていく。
60歳すぎに、縁あって頂戴した「赤いダイヤ」を読み返してみたことがある。時代は変われども、人の想いは変わらず、だと思った。
金を追いかけて何が悪い、金儲けしてどこがいけない、金で買えないものなど何もない……などと言う人は、いつの世にもいる。ここ最近は、金を稼ぐ人が偉い、という風潮が一段と強くなっているみたいだ。
金がないのは困る。だけど、どのくらいの金があれば幸せなのだろうか。
これは永遠の疑問かもしれないが、幸せとは価値観の問題だからなあ。まあ、金はほどほどでいい、と思う。金を得るために失くすものがある、そのバランスが大事なんじゃないかな。
改めて、この作家の若くしての客死を悼む。一度、お会いしたかった……。
人生は長いのか短いのか、それは人それぞれかもしれないが、人生は思いのほか早く過ぎていく。
70を前にして、心底そう思う。だからこそ、好きなことを仕事にするのがいい。好きこそものの上手なれ、なのだから。
そして、下手の横好きでもいいじゃないか、と自分に言い聞かせている。
[BOOK DATA]
「赤いダイヤ」
作者:梶山季之
初出:スポーツニッポン(スポーツニッポン新聞社、1961年連載)
単行本:集英社(1962年)
文庫本:角川書店(1975年)/集英社(1994年)
TV映画:TBS(1963年、監督:土居通芳、主演:大辻伺郎、野際陽子)
映画:東映(1964年、監督:西通雄雄、主演:藤田まこと、三田佳子)