部首はとてもおもしろくて、役に立つものです
ずっと書いていなかった。いつのまにか、真夏。時だけが過ぎてゆく。
ステイホームが続いている。出口が見えてこない。何かやろうとする気力がわいてこなくて、テレビばかり見ている。オリンピック開催には賛否両論があったけど、スポーツ観戦はやはり楽しい。こんなに心躍るのはいつ以来だろう。
少しだけだけど何となくやろうかな、と思えてきた――。
ここ数年、毎日のように考えていたのが、漢字パズルの問題だった。本にするわけでもなく、どこかに発表するわけでもなく、おもしろいのかどうかもわからずに、ただただ問題を考えていた。
新しいパズルが思いつくのは極めて稀で、あれこれと頭を使いながら、気がつくと時間があっという間に経っている。
ステイホームしている中、本の整理をしようと思いたったはいいのだが、あまりにも多すぎて一日で断念。気づいたこともある。読まずに積んであるだけの本があまりにも多いことだ。
そしていま、私のまわりには、小説やエッセイではなく、漢字関連の本ばかりがある。読むというより、漢字パズルをつくるときのためだ。
そんななかで出会ったのが、この「部首ときあかし辞典」。
漢字パズルをつくるうえで、これほど参考になった本はない。これまでも、部首のことを書いた本は数冊持っているが、部首の意味をこれほど深く考察した本は見当たらない。
まず驚いたのは、作者の名前。円満字とは、いままで聞いたことがない名前だ。作者自身はこう語っている。
1967年生まれとあるから、53歳か。出版社で高校国語教科書や漢和辞典などの編集を17年近く担当したそうで、2008年からフリーの編集者兼ライターとして、主に漢字文化関係で仕事を展開。
私とちがって、漢字と真正面から取り組んでいる人であろう。ただ、編集者だったことにも好感が持て、何冊かの本を手にした。その中で、もっとも感心したのが本書の「部首ときあかし辞典」である。本人はこう書いている。
第1部・人と生活に関する部首、第2部・交通と道具に関する部首、第3部・体に関する部首、第4部・動植物に関する部首、第5部・自然環境に関する部首、番外編・その他の部首、という構成。
なんと5,000以上の漢字が載っている。
編集者ではなく、まさしく、研究者の仕事である。感心するしかない。真似しようと思っても、真似ができる人がいるだろうか。私には絶対無理だ。
漢字への向き合い方が、端から違う。
一度お会いして話してみたい、と思っている。
そもそも私の場合、漢字パズルを本にしようと思ったのは、わずか6年ほど前のことだ。それまでは、漢字が好きなわけでもなく、漢字に強いわけでもなく、ただ漠然と漢字と付き合っていたように思う。
あるとき、ふと「漢字がつながる」と気づいた。どうしてなのか、まったく覚えていない。
一から二、二から三……。前の形を持ちながら、次の漢字へとつながっていく。
二から土、土から王、王から主と玉、主から住、住から往……。
これが「漢字のつながり」を初めて意識した流れだ。
このとき、これは単行本になりそうだ、と感じた。
幸いにも、この話に乗ってくれた編集者がいた。扶桑社の編集者だった。いまでも感謝している。
悪戦苦闘したかどうか覚えていないが、レイアウトしてくれた息子の力もあり、初めての単行本「つながる!ひらめく!漢字遺伝子パズル」が扶桑社から上梓された。2015年6月のことだった――。
この本が世に出たおかげで、2016年にKADOKAWAから「脳が若くなる漢字ドリル」(松永暢史監修)、講談社から「考える漢字パズル これ、書けますか?」の2冊を上梓することができた。
ただ、どの本も増刷にはならず、出版の難しさを痛いほど思い知らされた。
それでもあきらめきれず、漢字パズルの企画を2年ほど前まで提案し続けてきた。だが、結果は「おもしろいけど」で終わった。
一番の理由は、著者の力のなさであろう。現在では、前著の実績がすぐにわかってしまう。増刷になっていなければ、次の企画は見込みがないのが現状である。
そんな折の新型コロナウィルス感染症である。家にいる時間が増えたぶん、最初のうちは毎日、漢字と取り組んでいた。
だが、ステイホームが何か月も続くと、どんどん力が出なくなっていく。
以前なら「まあいいか」ですませていたけど、夏を前にしたある日、もう少しだけ続けてみようと思った。何がきっかけか、まるで覚えていない。
ある日突然、「スマホ一画面の漢字パズル」という企画を思いついたのだ。
信頼している編集者に提案した。彼からは、ツイッターを始めてみてはどうですか、のアドバイス。フォロワーを増やしてから出ないと、刊行は難しい、と。
2021年8月5日、ツイッターで「スマホ一画面の漢字あそび」をスタートさせた。
どなることやら、であるが、「まあいいか」という思いである。
来月、72歳の誕生日を迎える。ツイッターは六十の手習いならぬ、七十過ぎの手習いだ。
楽しみながら、日課として生活のリズムをつくれそうだ。それだけは救いであろう。
興味がある方は、ツイッターを見てほしい。毎日、漢字とあそぶのも悪くない。特に同年配の方々は、お互いにボケないためにも。
[BOOK DATA]
「部首ときあかし辞典」円満字二郎
単行本:研究社2013年5月30日 初版発行