部首ときあかし辞典

部首はとてもおもしろくて、役に立つものです

ずっと書いていなかった。いつのまにか、真夏。時だけが過ぎてゆく。

ステイホームが続いている。出口が見えてこない。何かやろうとする気力がわいてこなくて、テレビばかり見ている。オリンピック開催には賛否両論があったけど、スポーツ観戦はやはり楽しい。こんなに心躍るのはいつ以来だろう。

少しだけだけど何となくやろうかな、と思えてきた――。

ここ数年、毎日のように考えていたのが、漢字パズルの問題だった。本にするわけでもなく、どこかに発表するわけでもなく、おもしろいのかどうかもわからずに、ただただ問題を考えていた。

新しいパズルが思いつくのは極めて稀で、あれこれと頭を使いながら、気がつくと時間があっという間に経っている。

ステイホームしている中、本の整理をしようと思いたったはいいのだが、あまりにも多すぎて一日で断念。気づいたこともある。読まずに積んであるだけの本があまりにも多いことだ。

そしていま、私のまわりには、小説やエッセイではなく、漢字関連の本ばかりがある。読むというより、漢字パズルをつくるときのためだ。

そんななかで出会ったのが、この「部首ときあかし辞典」。

漢字パズルをつくるうえで、これほど参考になった本はない。これまでも、部首のことを書いた本は数冊持っているが、部首の意味をこれほど深く考察した本は見当たらない。

まず驚いたのは、作者の名前。円満字とは、いままで聞いたことがない名前だ。作者自身はこう語っている。

〝円満字は珍しい姓で、父から聞いた話では、もともと、石川県小松市の郊外にあった円満寺というお寺の土地に住んでいた人が、明治になってなぜか「寺」を「字」に変えて名乗ったらしい、とのこと。神戸に出て来たのは祖父の代。小松の本家の系統と、神戸の分家の系統があるものの、全国を探しても20人くらいしか名乗っていない姓ではないかと思われる。〟

1967年生まれとあるから、53歳か。出版社で高校国語教科書や漢和辞典などの編集を17年近く担当したそうで、2008年からフリーの編集者兼ライターとして、主に漢字文化関係で仕事を展開。

私とちがって、漢字と真正面から取り組んでいる人であろう。ただ、編集者だったことにも好感が持て、何冊かの本を手にした。その中で、もっとも感心したのが本書の「部首ときあかし辞典」である。本人はこう書いている。

〝286の部首を、意味をもとにした五つの部と番外編に分けて収録しました。一つ一つの部首について、漢字の例を示しながら詳しくていねいに説明していきますので、部首のあらわす意味がよくわかるのと同時に、さまざまな漢字の基本的な意味も理解できるようになっています。

第1部・人と生活に関する部首、第2部・交通と道具に関する部首、第3部・体に関する部首、第4部・動植物に関する部首、第5部・自然環境に関する部首、番外編・その他の部首、という構成。

なんと5,000以上の漢字が載っている。

編集者ではなく、まさしく、研究者の仕事である。感心するしかない。真似しようと思っても、真似ができる人がいるだろうか。私には絶対無理だ。

漢字への向き合い方が、端から違う。

一度お会いして話してみたい、と思っている。

そもそも私の場合、漢字パズルを本にしようと思ったのは、わずか6年ほど前のことだ。それまでは、漢字が好きなわけでもなく、漢字に強いわけでもなく、ただ漠然と漢字と付き合っていたように思う。

あるとき、ふと「漢字がつながる」と気づいた。どうしてなのか、まったく覚えていない。

一から二、二から三……。前の形を持ちながら、次の漢字へとつながっていく。

二から土、土から王、王から主と玉、主から住、住から往……。

これが「漢字のつながり」を初めて意識した流れだ。

このとき、これは単行本になりそうだ、と感じた。

幸いにも、この話に乗ってくれた編集者がいた。扶桑社の編集者だった。いまでも感謝している。

悪戦苦闘したかどうか覚えていないが、レイアウトしてくれた息子の力もあり、初めての単行本「つながる!ひらめく!漢字遺伝子パズル」が扶桑社から上梓された。2015年6月のことだった――。

この本が世に出たおかげで、2016年にKADOKAWAから「脳が若くなる漢字ドリル」(松永暢史監修)、講談社から「考える漢字パズル これ、書けますか?」の2冊を上梓することができた。

ただ、どの本も増刷にはならず、出版の難しさを痛いほど思い知らされた。

それでもあきらめきれず、漢字パズルの企画を2年ほど前まで提案し続けてきた。だが、結果は「おもしろいけど」で終わった。

一番の理由は、著者の力のなさであろう。現在では、前著の実績がすぐにわかってしまう。増刷になっていなければ、次の企画は見込みがないのが現状である。

そんな折の新型コロナウィルス感染症である。家にいる時間が増えたぶん、最初のうちは毎日、漢字と取り組んでいた。

だが、ステイホームが何か月も続くと、どんどん力が出なくなっていく。

以前なら「まあいいか」ですませていたけど、夏を前にしたある日、もう少しだけ続けてみようと思った。何がきっかけか、まるで覚えていない。

ある日突然、「スマホ一画面の漢字パズル」という企画を思いついたのだ。

信頼している編集者に提案した。彼からは、ツイッターを始めてみてはどうですか、のアドバイス。フォロワーを増やしてから出ないと、刊行は難しい、と。

2021年8月5日、ツイッターで「スマホ一画面の漢字あそび」をスタートさせた。
どなることやら、であるが、「まあいいか」という思いである。

来月、72歳の誕生日を迎える。ツイッターは六十の手習いならぬ、七十過ぎの手習いだ。

楽しみながら、日課として生活のリズムをつくれそうだ。それだけは救いであろう。

興味がある方は、ツイッターを見てほしい。毎日、漢字とあそぶのも悪くない。特に同年配の方々は、お互いにボケないためにも。

[BOOK DATA]

「部首ときあかし辞典」円満字二郎
単行本:研究社2013年5月30日 初版発行