ビートたけしの本を三冊買った。読んだ順番通りに挙げると、「フランス座」、「キャバレー」、「アナログ」。どれも本人が「自分で書いた」と言っている小説である。三冊を三日間で一気に読んだ。
書いた時期については、本人が雑誌(「文藝」2019年4月増刊)で次のように語っている。
「アナログ」は、ビートたけしが初めて書いた純愛小説。30代のインテリアデザイナーの主人公が、広尾の喫茶店で偶然出会った女性に一目惚れしたところから物語は始まる。
連絡先を聞いたら、二度と会えなくなるような気がした、と思う男。
「休みが木曜日なので、何もなければ夕方ですけど、よくここに来ていますよ」と言う女。
木曜日の夕方、お互いにその時間が合えば、同じ喫茶店で会いましょう、と決めただけの付き合い方に、男の高校時代からの悪友がつぶやく。
「今どきの何でも手軽に連絡を取り合う人間関係、それじゃ悩んだり心配したり、心の葛藤がない。時代に逆らうようなアナログな付き合い方、それが本当の恋愛かもしれない」
携帯電話が普及した現代だからこそ、こういう設定での恋愛物語にしたのだろう。
誰でも経験があるかもしれないが、携帯電話がない時代は、待ち合わせしたらそこで待つか、駅などには伝言板があったからそこに何かを書いておくか、それぐらいしか方法がなかった。
実際に、約束の場所で長い時間待った経験が二回ある。一度は相手が急病で来れなかったとき。もう一度は会いたくなかったから行かなかった、とふられたとき。前者ならいいけど、後者はつらい。しばらく女性不審になってしまった。
仕事で会えないこともある。大切な用事で行けないこともある。だけど、自分からは連絡できない。
このアナログ的恋愛は、はたしてうまくいくのか――。
やはり、持つべきものは友であると教えてくれるが、物語はとんでもない結末を用意していた。涙が止まらなかった……。
御年70を迎えた男が、こんな純愛小説を書いたのだ。ラストはもう少しだけ書き足してほしかった、とも後から思ったけど、涙、涙、涙で本が読めないほどでした。
離婚だの、愛人だの、外野席はうるさいけど、そんなことは本人がよければいいこと。
この小説に見る優しさが、ビートたけしの素晴らしいところだと思う。こんな恋愛は望むべきもないけど、気持ちの若さはうらやましいかぎり。
いまさらながら、ビートたけしのオールナイトニッポンの本「三国一の幸せ者」(1981年)をはじめとして全10冊、すべての編集を担当できたことを誇りに思う。
「たけし・逸見の平成教育委員会」(扶桑社刊1992年)の編集も懐かしく思い出す。文と図だけで、答えをどうわかりやすく書くか、とても苦労したのを覚えている。
[BOOK DATA]
「アナログ」
作者:ビートたけし
単行本:書き下ろし(文藝春秋2018年9月20日 第一刷発行)