あしたのジョー

前代未聞のことだ。マンガが社会現象にまでなった。

『週刊少年サンデー』と『週刊少年マガジン』というマンガ週刊誌が創刊されたのは、1959年3月17日のこと。小学校4年生になる直前だが、そこから大学を卒業するまで、ずっと両誌を読んでいた。

小学校のころは、貸本屋で借りて読んでいた。毎週買うようになったのは、中学生になってからだ。小説よりマンガとの付き合いのほうが、ずっと長い。いまでもマンガは大好きだ。

『少年マガジン』でスポーツマンガの名作「あしたのジョー」が連載されたのは、1967年の暮れのこと。受験生なのに、マンガはよく読んでいたのを思い出す。

主人公の矢吹丈(ジョー)にボクシングを教えるのは、アル中の元ボクシングジム会長の丹下団平。ライバルは力石徹。この3人の名前は、いまでも覚えている。

原作は高森朝雄、「巨人の星」との差別化をはかるため、梶原一騎のペンネームを使わなかったという。

作画はちばてつや。相撲マンガ「のたり松太郎」、ゴルフマンガ「あした天気になあれ」なども好きな作品だ。野球マンガ「キャプテン」の作者ちばあきおは実弟である。

ジョーは力石との一戦に敗れるが、対戦直後、力石は死んでしまう。架空の人物なのに、力石の葬儀が行われたのは前代未聞のことだ。マンガが社会現象にまでなった。

だが、これがクライマックスにならないところが、このマンガのすごいところのひとつ。文庫全12巻のうち5巻が終わっただけで、さらに物語が続いたのだ。このあと苦しみ続けるジョーを2巻分も描いている。相手の顔面を打てなくなり、連戦連敗のジョー。読むのがつらいマンガであった。

しかし、物語は続き、再びチャンピオンの座に返り咲く。そして、最後の一戦を迎える――。

なんとも言い難い、素晴らしいラストシーンだった。

そこに書かれていた「灰」という漢字は、ものが燃えたあとに残ったもの、という意味だと知ったいま、読み返してみたいという思いが強くなっている。

いまでも、マンガは小説とおなじくらい読んでいる。というか、昔のマンガを読み返している。そこで、新しい発見があったりするから面白い。

この「あしたのジョー」も30代半ばに一度、全巻買い揃えて読み返した。その本たちは、ある女優に送ってしまった。

いま、70歳を前にして、この本を読んでみたいと思うのは、どのような人生の終わり方をしたいのか、と心のどこかで考えているからだろうか……。

[BOOK DATA]

「あしたのジョー」
作者:高森朝雄(原作)、ちばてつや(作画)
初出:週刊少年マガジン(講談社、1968年1月1日号~1973年5月13日号連載)
単行本:講談社1~20(1970年~1973年)
文庫本:講談社1~20(1977年)・全12巻(2000年)
TVアニメ:フジテレビ系放映(1970年4月1日 ~1971年9月29日、全79話)/「あしたのジョー2」(日本テレビ系放映、1980年10月13日〜1981年8月31日、全47話)
劇場版アニメ:東映(1980年)/「あしたのジョー2」(1981年)
実写映画:ダイニチ映配(1970年、監督:長谷部安春、主演:石橋正次)/東宝(2011年、監督:曽利文彦、主演:山下智久)